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建築家・伊東忠太の偉大なる功績と「生きた建築」を体感するトークショー

2016年10月16日(日) レポート

日本を代表する建築家・伊東忠太が設計したことで知られる西本願寺・伝道院。
普段は僧侶の研修施設として使われ、入ることができない伝道院が一般開放される貴重なこの機会に、まさにその内部で「伊東忠太と世界の建築」を語るトーク企画が行われました。

トークするのは、伝道院内でコンセプトモデルを公開した「遠藤秀平コンセプトモデル展」と世界中の建築ミニチュア約500個を集めた「建築ミニチュアの世界」を実施した建築家の遠藤秀平さんと建築史家の倉方俊輔さんのお二方。

冒頭、「今回はこの京都国際映画祭で、素晴らしい(伝道院の)使い方をしていただいて嬉しいです」と感謝を述べる倉方氏。
現在、大阪市立大学で建築の歴史を教えている倉方氏は、伊東忠太についての学位論文で博士号を取得するなど、伊東忠太の研究家として知られています。「私は、伊東忠太について、おそらく世界で一番詳しい男です(笑)。今日は伊東忠太という名前を是非覚えて帰ってください」と熱弁。
まずは、重要文化財である伝道院という建物について詳しい説明がありました。

西本願寺・伝道院は元々「真宗信徒生命保険会社」の本社として建てられた建物。明治維新後、仏教の地位が落ち込み、没落した京都を盛り返すために伝統産業を近代化しようという動きの中、西本願寺は様々な改革を推し進めました。日本的な要素が少なく、イギリス建築や中世の様式をもとにしている伝道院は、蟇股(カエルマタ)という窓の装飾やイスラム風のアーチなど、西洋、東洋、イスラムなどの世界の特色を混ぜ合わせた建築。世界の良いところをリミックスし、取り入れようという建築進化論を唱えた伊東忠太の最初の建築がこの伝道院ということです。

なぜそんな強い信念を持てたのか?という話では、伊東忠太がアジアやユーラシア大陸など世界中を旅する中で、世界との繋がりを意識したということに触れ、今回展示されている「建築ミニチュアの世界」には何か仕掛けがあるのですよね?という話に。

「伊東忠太には、シンパシーを強く感じるんです」と遠藤氏。
「ここにある500個近いミニチュアは、私が実際に世界各国で購入してきたものなんです。乱雑に置いてあるように見えますが、ユーラシア大陸が部屋の真ん中にあり、日本列島、ヨーロッパ…と配置されています。アメリカは関心が低いので小さいのですが(笑)。
伊東忠太の巡った世界を体感して欲しいという想いで設営しました」とこだわったポイントを紹介。世界を一周したような気分になる配置も含め、楽しんで欲しいと倉方氏も絶賛しました。

そして、1894年に開かれた第四回内国勧業博覧会後、伊東忠太が手掛けた平安神宮の復元の経緯など、興味深い話が続き、公的な立場での仕事もこなしながら、自分の信じる道を突き進んだ伊東忠太の特質と、神戸大学の教授という立場でありながら、遊び心のあるミニチュアの収集で世界を読み取る遠藤さんは、共通するところがあるのでは?という話にも発展。

「建築ミニチュアは各地域の個性が表れていて、その街の愛されているものがミニチュアとして造られます。現地で眼に焼き付けていても忘れてしまうのですが、家でミニチュアを見ると想い出されるんです。
おもちゃのようなものでも記憶を膨らませてくれる奥深いものですね」と建築ミニチュアの魅力を語りました。

さらには、上野にあった「弁天堂前の天龍門」(戦争により消失)など人々に親しまれる建築を好んだ伊東忠太のエピソードを紹介し、上から押し付けるような建築ではなく、一般の人が好きなものに共感を持ち続けていたことが、建築の専門家以外にもファンが多い伊東忠太の魅力ではないかという考察も。

続いても伝道院の特徴的な屋根の内部など、細かいデティールについての話や、伊東忠太と夏目漱石などの同世代の文豪との比較など多伎に渡るテーマで様々なトークが展開されました。

「建築は生きているものです。中に入って人々が行動するために生まれたものなので、今回、西本願寺さんにこの空間を使わせていただけたことは、大変貴重なことです」と倉方氏は重ねて感謝の思いを述べ、「先人から託された空間を使うのは我々の知恵です」とも。
更に11月に大阪で開催されるイベント「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」の紹介があり、ここで次のスケジュールの為、倉方氏は会場を後に。

続く遠藤氏のトークでは、更に自身の展示についての解説を。
応接室など普段は展示に使われることのない独特の空間と金属を使った模型が見事に一体化しているところが見所だということで、光が弱くなってくる夕方の空間の変化も楽しんでほしいと紹介。
素材に鉄、アルミ、ステンレス、木、3Dプリンタなどを使った模型は、骨格のエッセンスを抽出していて、使い方や場所などあまり情報を示してはいないが、空間性や体感イメージを膨らませて見てほしいとも加えました。

最後には、独立して30年となる自身のキャリアにも触れ、様々なプロジェクトの中で、借り物ではなく、自分の中にあるアイデアで作り出していく達成感を感じていると語る遠藤氏。
「今回の京都国際映画祭でまとまった展示ができ、ひとつの到達点となりました。これからも、伊東忠太を見習いながら邁進していきたいです」と今後の抱負を語り、新たな建築の未来を予感させる濃密な内容のトークショーは幕を閉じました。

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