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日本映画の巨匠・篠田正浩監督と名優・長塚京三氏の貴重なトークショーを開催。『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』特別上映

2016年10月13日(木) レポート

初日の13日は、TOHOシネマズ二条にて『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』を特別上映しました。
同作品は戦後の混乱期、戦死した長男の遺骨を故郷の墓に埋葬するために家族旅行に出かけた家族の道行を、ノスタルジックな風景の中でつづったドラマ。

今回の特別上映の前には、牧野省三賞を受賞した篠田正浩監督と主演を務めた俳優・長塚京三氏が登場し、舞台挨拶が行われました。

篠田監督は、1963年に『暗殺』という映画で、京都にて作品賞を受賞。そして今年85歳という節目で牧野省三賞を、再び京都の地で受賞したことに感銘を受けていた様子。
「こんなに京都と縁が深いと感じたことはありません。京都の方に足を向けては寝られませんね(笑)。どうもありがとうございます」と感謝の気持ちを語りました。

続いて長塚京三氏は、この作品で1997年の日本アカデミー賞で優秀男優賞を受賞したエピソードを披露しました。

次に、篠田監督に牧野省三賞の受賞について感想を尋ねると「牧野省三という人は尾上松之助という時代劇俳優を産んだ時代劇のパイオニアで、独立プロダクションで映画を造るという困難を成し遂げた最初の人。日本の映画史のトップページに書かれるくらいの人で、その人の賞をいただけたのは、同じ活動屋として本当に光栄の極みです」と感謝の言葉を述べられました。

また主演の長塚氏については「息子さんは素晴らしい劇作家で、“この父親から本当に生まれたのか”と思うくらい、よい後継者だし、私は心置きなく最後の文筆活動に専念したいと思います」と茶目っ気たっぷりにコメントしていました。

それに対して、篠田監督の印象を聞かれた長塚氏は「とっても素敵な笑顔の方。こんな素敵な笑顔の方はお目にかかったことがないくらい。世の中には“そこにいてくださるだけで幸せになれる、生きていける”という方がいらっしゃって、私にとってはそれが篠田さん。いつも時々、遠くで近くで笑いかけてくださり、僕たちに勇気を与えてくれる方です。僕も監督のような笑顔の美しい男になりたいです」と、精一杯の敬意と愛情を表していました。

作品については、監督の作品に登場する「瀬戸内」についてトークが展開しました。
同地にこだわる理由を質問したところ、監督は「私の出身の岐阜は海がなく、地理の時間に習った“瀬戸内海”という言葉が頭に残っていた」のだそう。ところが作詞家・阿久悠が“瀬戸内”という言葉を用いて撮った『瀬戸内少年野球団』という映画から、「瀬戸内で滅亡する平家の壇ノ浦の合戦が思い浮かんだ」のだとか。
また監督が映画に目覚めたのは日本が世界大戦で負けた時だったことから、瀬戸内という言葉から平家の滅亡と日本の敗戦が重なって思えたこと、そしてこの映画のストーリーへと繋がっていくという、タイトルにまつわる秘話を披露しました。
また同タイトルの一部“ムーンライト・セレナーデ”は、作品の舞台となった瀬戸内の月光が、怒りや「(敗戦してでも)生かなければいけないのか」という敗者の悲しみと同時に、生きる力を得ていく、という自身の戦後体験が重なったもの、と語りました。

最後に監督は「瀬戸内海航路の船の中の物語がこの映画のメインです。
長塚さんはもちろんですが、船上の俳優さんたちがとっても素晴らしいので、ぜひ注目してみてください」と見どころをアピール。
長塚氏は「この作品は神戸の震災と先の大戦が重なったものですが、東日本大震災と重ね合わせて見てみるとどのように感じられるか、またそれも興味深いと思います」とコメントし、興味深いトークが展開された舞台挨拶は幕を下ろしました。

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