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メディアのタブーに切り込んだ『ミゼットプロレス伝説〜小さな巨人〜』上映! 森監督と特別ゲスト・掘潤さんが放送局の表現規制のあり方を問う

2016年10月16日(日) レポート

京都国際映画祭開催期間中、よしもと祇園花月で行われていた「森達也特集」。
映画そのものの見方を変えたとも言われるドキュメンタリー映画『FAKE』をはじめ、森監督の作品4作を上映しました。

最終日の10月16日(日)に上映されたのは『ミゼットプロレス伝説〜小さな巨人たち〜』。
日本のプロレス黎明期には興行の花形だったにもかかわらず、メディアから黙殺されていた小人プロレスのドキュメントです。
上映前、司会進行を務めるテレビ東京アナウンサー・大橋未歩さん、森監督、そして特別ゲストに、元NHKアナウンサーでジャーナリストの堀潤さんがトークショーを行いました。

この作品が誕生したのは1992年。
森監督がテレビのディレクターだった頃に企画・プロデュース。
「そもそも昔からプロレスが好きで、今でも大好きなんですけど、当時はよく興行を観に行っていて、そこで小人たちのプロレスを観ていたんです。僕がテレビの仕事を始めて半年ぐらいの時、AD時代に『最近どうしてるのかな』と思って、観に行ったんです」。
当時、日本女子プロレスが全盛期で、クラッシュギャルズなどが大人気。テレビで毎週放送するほどの盛り上がりでした。森監督は興行を観に行き、あることに気づいたといいます。
「煌々と付いているテレビ用の照明がいきなり消えて、スタッフが全員タバコを吸いに外に出て行っちゃう。『あれ?』と思っていたら、小人の試合が始まるんです。『そういえば、小人の試合は全然テレビでやってないな』と思って」。
これをぜひドキュメンタリーにしようと企画書を書いたものの、企画書がまったく通らず「結構大変だった」とか。
会場は大盛り上がりなのに、「テレビでは放送できない」との判断で、“なきもの”とされていた小人プロレス。

そのことについて堀さんは「『小人』という言葉に限らず、放送局側で自分たちの判断で『不適切』と判断して言葉としても使わないし、シーンとしても放送しない。そういうことは他にもたくさんありますよね」と実情を明かします。
言葉を扱うアナウンサーだけに、大橋さんも掘さんも思うところがある様子で、テレビで使ってはいけない表現の話に。
「差別・偏見を助長しかねないという理由で、実際に抗議が来たという話とは別に、ルールとしてここで線引きしますという風になってしまうんです。そういう過剰さには違和感みたいなのはありますよね」と話します。
大橋さんも、「本質はどこにあるのか、何のための規制なのか、ということが分からなくなっている、と。思考停止のまま放送している部分もあるのかな、という気がします」とも。

続けて大橋さんは森監督に質問を。
「当事者はどうのように思っているのかというと、今回のミゼットプロレスに関しては、選手たちが『放送してほしい』と思っているわけですよね。にもかかわらず、『かわいそうだ、見せものにするな』という声で放送されなくなってしまう。そういった食い違い、意識の差はどう思われますか?」と尋ねます。
森監督は
「僕らがこれを撮り始める少し前に、彼らが、『8時だョ!全員集合』というモンスター番組にいっとき出演していたんです。でも、ワンクールの契約だったのが、2〜3回で彼らの出演が打ち切りになってしまった。その理由は、視聴者から抗議が来たから。『あんなかわいそうな人を、なぜテレビで晒し者にするんだ』という抗議が何十件も来た。それで放送局としては『申し訳ないけれど、君たちは番組で使えない』ということで、彼らはまた居場所を失ってしまうんです」。
続けて森監督は、“善意”について語ります。
「善意って怖いんです。僕は悪意の方がまだ自覚がある分マシだ思うんですが、善意は暴走します。そして、正義になっちゃうんです。正義に陶酔したら一番怖い。それは今の国際状況もそうなんだけど、そんなことを感じます」と投げかけました。

さらに森監督は、「これは『A』や『A2 完全版』にも通じるんですが、僕たちはいろんな思い込みで、いろんな現象や人を見てしまうけど、実際に話してみれば、ほとんど同じです。アルカイダの人にも中国マフィアの人にも会ったことがあるし、オウムの死刑囚にも会ってきましたが、みんな一緒ですよ。悲しい話になれば泣くし、ちょっとHな話は大好きだし、それは世界中どんな民族でも、言語が違っても一緒。それは当たり前ですけど、小人も一緒です」とも。

また、「小人」を「ミゼット」と表現することに対しても、大橋さんは「『小人』という言葉が使えないから「ミゼット」という英語から持ってきたと思うんですけど、帰国子女の子に『ミゼット』の意味を聞いたら『それこそとんでもない差別用語だ』と言われたんです。しかし『小人』という言葉が使えないばっかりに、上だけすげかえて持ってきた。そうなると、本質というか、どういった意味での自粛だかわからなくなりますよね」と話します。掘さんも「安いリスク回避はほうぼうに見られますよね」と語りました。

「使えなくなった言葉には、要するに僕たちの中に差別意識や、あるいは後ろめたさみたいなものがあって、そういった想いが言葉に憑依しちゃうわけです。いくら言い換えたとしても、僕たちの意識が変わらないかぎりは使っているうちに、いずれその言葉もなくなっていく。だから、これはもう言葉を換えてもダメなんです。僕たちの気持ちを変えなければ」との森監督の意見に、掘さんも「おっしゃるとおりです」とうなずきます。

いよいよ上映時間が迫ってきました。
最後に森監督は、「この作品は、結果としてフジテレビで放送することになったんですが、当時、僕はまだADだったので、先輩のディレクターだった野中真理子さんの力を借りました。ディレクターは彼女なので彼女の意向が強く、僕の作風ではないけれど、今になって観たらこういうのもありかな、と思いました。笑って楽しめる作品です」と締めくくりました。

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